2月13日の日記

2011年2月13日 日常
第2話 いっちゃダメ(`;ω;´)

「…ねえ」
「…ねえ、何してるの?」
見た目は16,7歳くらい。
こうもり傘というのだろうか、見た目からは不釣り合いなほどに大きな傘を差して、少女は俺の後ろに佇んでいた。


へ?観光客?ああ道を訊ねてるのかな…?
突然のことに動揺した俺は先ほどの少女の質問とはつじつまの合わない回答を出した。
「あ、はい。どこかへ行きたいところがあるのですか?」


「…? あなたが何をしてるか聞いたんだけれど…」
「あ、はい。 …草刈りです」
「…なんで?」
「へ?」


「なんでこんな雨で寒いのにこんなことしてるの?」
「ええと… 仕事ですから」

「仕事だからってこんな雨の日にやることないじゃない。もうどれだけやってるの…」
「3時間くらいです。あなたはいったい?」



「…だよ」

「はい?」

「…そんなにやっちゃダメだよ」

雨空で薄暗い中、少女はだんだんと悲しげな顔になり、言葉に今まで以上の感情が込められる。
「そんなに、そんなに頑張っちゃダメだよ!!」

少女は泣いているような怒っているような、冗談で言っているとは思えない震えた声で俺に話し続ける。

「こんなに寒いのに、やらなくていいよ。やらないでよ。仕事だからじゃないよ。キミは機械なの?機械じゃないよ!」
「でもやらずに帰ったら怒られちゃうよ」

草を刈る手を動かす。

すると少女は片手を伸ばし、腕に掴みかかってきた!
「もう、しないでよ!機械じゃないよ…!」
「機械じゃないけど、仕事だから」

少女の激情的な反応に面食らいつつも返答を続けるも、少女はもう泣いているとしか言いようのない顔でやっちゃダメ、しないでと言い続けるばかり。
なんなんだろう、この子は。どうして俺の心配をしてくれてるんだろう。

…しかしこの状況、どうしたものか。

「…わかった。いったん草むしりはやめるよ。きみは、ここで何をしてるの?」
なだめるように話しかける。うんうんと涙をぬぐいながら少女は話す。


「私、鎌倉にお昼食べに来たの。電車でここを通ったとき、キミが見えたんだけど、電車から降りて、お料理屋へ向かう途中もまだキミがいて…キミ、ずっと草をむしり続けてるから…だから…」
とつとつと完成しない文章が並ぶが、おそらくはこういうことか。

ここには江ノ電が通っており、乗車中にこの場所が見える。乗車中、俺が雨の中黙々と草を刈っていた姿が見え、電車から降りて料理屋へ向かっているときにまだ居た。だから見るに見かねて話し掛けた、と。


「…俺を心配してくれてるの?」
「…かわいそうだよ。キミは機械じゃないよね!?こんなに頑張らなくていいんだよ!」
また感情が昂ぶろうとしている。

「わかった、わかった。ありがとう、心配してくれて」
「でも、いい加減にお店に行かないと、風邪引きますよ。俺はレインコート着てるからいいけど」

少女の服装は半袖のワンピース。初夏らしい服装と言えばそうだが、あいにくこの天気では肌寒そうな印象しか見当たらない。


「何言ってる!キミの方が風邪引く!」
雨の中で佇むレインコートというのは、客観的に見ればかなり不遇で辛そうな印象だが、それは半分当たりで半分外れだ。
レインコートの中は暖かくて思ったより雨のストレスはないが、レインコートより外、手や顔面は寒い。作業をしているとどちらも尚更だ。
それにしても、この少女ときおりカタコトになるのは何故だろう。


「ねえ仕事、やめてよ」
「わかったよ、休憩するよ」
ちょうど休憩を取ろうとは思っていたところだし。
なぜだか、少女の顔が一転、晴れやかになったような気がする。


「決まりねっ!お昼ごはんは?」
「んー…まだ食べてないです」
「やっぱり。お昼も食べずに続けるなんてバカね!機械だって燃料ないと動かないのに!」
仕事に対してどれだけ嫌悪感というか、敵対感を持ってるんだろう、この謎の少女は。まあ俺も仕事が好きだなんて口が裂けても言えないけど。

「行きましょ!あそこ。あそこ」
「この辺にあるんですか?」
正直、鎌倉にある料理屋までは詳しくない。

「“鎌倉 鉢の大樹”知らないのっ?有名なのに!」

「ああ、聞いたことはあるような…でもあそこって確か、高級なお店じゃなかった?」

「このお店はね9900リツイート達成したから100円で豪華焼肉が食べ放題なのよ!特価品1117で見つけたの!ふふっ!」

??何の話をしているのか、さっぱりわからない…

「でもね予約が必要で、100円が確定してからは電話回線がパンクだったのよ!」

「でもね、でもねわたしのね、アイエスゼロイチとイーモバの4台持ちのわたしだから掛けまくって、すぐに予約出来たわ!ふふっ!

興奮気味に話しながら、白の可愛らしいポーチから水色のメガネケース?を取り出す。何が何だかわからないが凄い子だってことはわかるような。やっぱりわからないな。

「へえ…でも、予約が必要だってことは、当然俺の分の予約は入ってないから、俺は行けないなあ」

「大丈夫よ!予約は最大の4人でとってあるから!」

「…? だったら4人で行くんじゃなかったの」



「……」
「……」



「……行くのは私だけ」

「……誰も行く人、見つからなかったし」


実にたくましい子だった。


「ねえ!行くのよね?」
うつむき加減で、俺を見上げてくる。

「……」
「…わかった」

今日は財布に万札も入ってるし100円で焼肉食べ放題なんて嘘っぱちで最悪の事態が起きても、なんとかなるし。…このあからさまに怪しい、不思議な子のことも気になるし。腹も減ったし。色々と心のなかで言い訳をしながら、腹を括った。
「決まりねっ!!」

おもむろに俺の手を引っ張り、お店に向かって歩き出す。
「待て待て!かっぱ脱いで傘取ってくるから」

「いいわよそんなの!あっちで脱げばいいじゃない!それに傘は私の使えばいいよ」
「なんだそれ…」
呆気にとられる。

「あ!」
「?」

「キミの名前聞いてなかったわ!」
「あー…朝田です。朝田慎二郎」

「朝田っていうんだ… 朝田、慎二郎。うん、いい名前だわ」
「はあ、ありがとうございます」

「それじゃあ、100円で向こう三日分の腹ごしらえをするわよ!」
        ・・・・
「覚悟しなさい、アサシン!」


「はいー!?」







第2話 いっちゃダメ(`;ω;´) 完

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