第3話 少年よ注意を払え



「「「いらっしゃいませェー!!」」」

すごい熱気。人、人、人。
なんだ、これ。
これ、全席が100円食べ放題?ってことか


「いらっしゃいませ、本日はすべてご予約席のみとなっておりますが、ご予約はされておりますでしょうか?」


「はい。 4にんで予約していた天皇なんですけど」
「ちょっと、2り仕事でキャンセルなんですけど」
え、天皇って言ったいま!?


「…少々お待ちくださいませ… はい、テンノウ様ですね、お待ちしておりました。では2名様キャンセルで、2名様ですね。かしこまりました」
「奥の席へご案内いたします」



店員のお姉さんの後ろに付いていってる少女の後ろに付いていきながら、小声で話しかける。
「おい、テンノウってなにさ。天皇ってあの天皇なの」
「? そうよ、おもしろいでしょ」


「こちらのお座敷席でございます。メニューが決まりましたら、こちらのボタンでお呼び下さい。それではごゆっくりどうぞ」


「今日は、電話のだったけど…普通の記入する予約でもね、天皇って書いておくのよ」
「そうすると“2名様でお待ちの天皇様~ 天皇様~”ってお店の人が呼んでくれるの」

「天皇陛下~って呼んでくれたことはないんだけどね。きっといつか表れるに違いないわ!だって、天皇に様なんておかしいでしょ?ふふっ!」
「はあ…」

つくづく訳のわからない子だ

「さっ!そんなことよりメニューメニュー!なに食べたい?」
「わ!上ハラミとか上ロースとか上の付いたのばかり!ここは上野動物園かー!」
「1100円!?1300円!?とても通常価格では来られないわ!」

「どうせなら“超”牛タンとか食べたいよねー。どっかの監督かー!って」
「ドリンクもいちばん高いの選ぶけど、いいよね?答えは聞いてない!」
「はいはい」

この子のはしゃぎっぷりったら。
今回のイベントごとがよほど楽しみだったようだな。
もうちょっと声を抑えて言ったほうが良いと思われる発言も散見される。



                       ピーンポーン
                       「ただいまお伺い致しまぁ~す!!」




「あ!」
「?」
「…領収書書いてもらうとしたら、やっぱり …くすくすくす」


上様か。




                  「ドリンクお持ちいたしました」



「あ!」
「?」
「上野動物園で思い出したんだけど、動物園の隣に焼肉屋を出したらすごいと思わない?」
「んー、なんで?パチンコ屋とかならよく見かけるけど…」

「動物を見た後、お肉を食べたくなるに違いないわ! そこで、鹿の肉や、ライオンふうの肉、うさぎの肉なんかを出すのよ」
「きっと繁盛するわ! コロンブスズエッグね!」

“動物を見た後~”からの前提が間違ってると思う。

「…手術後の医者じゃないんだから」
「…それもそうね。動物園じゃ焼肉の匂いっていうよりうんちの匂いしかしないし。食欲なくなるかあ…」

この子、手術後の医者ってだけで分かるのか。さすが…

「ところで」
「なあに」

「なんで俺を誘ってくれたんですか?まあ、有り難いばかりなんだけど」
「……」

「アサシンくん。キミは人間?それとも機械?」

「…人間の、つもりだけど(アサシンくんって…)」

「機械じゃないならご飯食べるよね?」

「ええ」

「だからキミは食べるの」

「…そうですか」

深く追求しても無間世界に迷い込むだけだからやめておこう。今は。


「声掛けなかったらそのまま消えてしまいそうだったし。キミ、モブキャラみたい」

「そこまで希薄に見えましたか!!」




「それに…」

「?」

……



「もったいないじゃない! 4にんぶんの枠」

「“15時予約のテンノウ様”でヤフオクに出してもよかったんだけどね。色々もんだいをクリアしないといけなさそうだったから…やめちゃった。たけし以上に祭り上げられちゃうよ」

「…そうですか」

よくわからんけど、実にたくましい子。


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「こんにちは、ロケッツニュースという者ですが、少し取材をさせて頂いてもよろしいでしょうか~?」
「お二人は100円で食べ放題というのをご存知で来店されたのですか?」

「はい、そうです」
「おお~それはそれは。予約は大変ではありませんでしたか?」
「はい、だけど余裕でした」

グーのポーズ。そしてどことなく勝ち誇った顔

「お二人はカップルでいらっしゃいますか?」


ぶっ…!!


「あ、いえ…」
「いいえ。 …行きずりの関係です♪」
「あははっ。それはそれは。つかぬことをお聞きしてすみません」

そのほか二言三言の取材を受けていた。
まあ、俺も取材なんて受けたことなかったし、まんざらでもないけど。

「最後にベストショットなお写真撮ってもよろしいでしょうか~?」

万が一にでも仕事中にこんなことしてるのがバレてはマズいって。
「いえ、自分はちょっt…」
「はい、お願いします♪」

こ、こいつおもむろに俺の二の腕に抱き寄ってくるだと!?



カシャリ



「ありがとうございます。この写真掲載させていただいてもよろしいですか?」
「はい、どうぞ …あっやっぱりダメですダメ! 記事に載せるなら、笑い男のマークしてください」

「はあ、笑い男のマークは残念ながら別のニュースサイトなのですが…ですが、顔は隠してならOKでしょうか?」
「はい!どうぞ」

本当、臆面ないなこの子…

顔隠してくれるっていうなら、おれもいいけどさ。




食べ放題飲み放題の宴は、こうして終焉へと近づく。




つづく

※この物語はフィクションです

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